諸國ふるほん漫遊記 香港篇(2)

どことはいいませんがホテル全景。建物下方の平屋部分に、どこかで見たようなロゴマークが入っていますね

どことはいいませんがホテル全景。建物下方の平屋部分に、どこかで見たようなロゴマークが入っていますね

前述したように、この老舗ホテルは部屋が大きくゆったりしている反面、設備がどれもこれも滅法界古く、ていねいに清掃され整備されてはいるものの、全般的にたいそうくたびれているのは否定できません。たとえばトイレ。ウォシュレットまではむろん期待していませんでしたし(※1)、水洗ならばまあ良しと思っていたものの、いきなり「流れない!」という事態にはさすがに笑いました。なにしろ中途半端なそれでなく、こう断固たる決意させる感じさせる「流れない」なのです。とにかくどれほどコックを捻っても、捻り挙げても、「んッごー」とイカニモそれらしい音を立ててちょびっと水位を上げつつ、しかし渦も巻かず、さざ波ひとつ立てず、水はガンとして流れません。

ホテル周辺はこんな感じ。九龍からはだいぶ離れてる(クルマで30分弱)んですが、それなりに賑わってます

ホテル周辺はこんな感じ。九龍からはだいぶ離れてる(クルマで30分弱)んですが、それなりに賑わってます

いかに付き合いの長い夫婦とはいえ、ことは紳士としての体面にかかわります。意地になってこれでもかとコックを捻りまくりますが、やはり「んッごー」と音だけやたら景気よく、しかしその水面はあくまで明鏡止水のごとく、変化の兆しすら現われないのです。10回、20回、状況は変わらず、さらに30回を超えて、これはもうフロントに連絡するしかないか、と。だけどここのフロント、どえらく因業そうなおっさんだったよなア、と。早くも腰が引けかけたところで、ハレルヤ。神も照覧。徐々に水位が上がりはじめ、さらに十数回……おおよそ40回目のコック捻りで時は充ち、めでたく「ざっばー」と流すことができたのでした。

こちらは九龍中心部、旺角の看板。「物業」とありますから、どうやら不動産屋の広告みたいですね

こちらは九龍中心部、旺角の看板。「物業」とありますから、どうやら不動産屋の広告みたいですね

楽しかるべき旅行で、なぜまたこのような非道な仕打に堪えなければならぬのか。いま思えば理不尽さに怒りを禁じえませんが、その時は「とにかく流れた!」「流れてくれた!」――と、もはや全面的に「神に感謝」状態です。トイレ自身も自身の卑劣な行ないを反省したのか、以後はなぜか10回程度捻れば流れないでもない、という小康状態(※2)となったので、ことさらことを荒立てるのも如何なものか、と事なかれ主義の結論に達しました。じつは他にもコンセントがアレだったり(※3)、Wi-Fiがウヌヌだったり(※4)いろいろあったのですが、すでに日も傾き、とにかく腹が減りました。荷物を置いてただちに出街した次第です。

本項つづきます。できれば次回こそ古本屋にたどり着きたいところです。

これもホテルの近所にあった八百屋さん。香港人はあまり家で料理をしないといいますが、まったくしないわけじゃないでしょう

これもホテルの近所にあった八百屋さん。香港人はあまり家で料理をしないといいますが、まったくしないわけじゃないでしょう

※1 とはいえ日本国内では、もはや安いビジネスホテルでもウォシュレットは標準装備という感じですし、バンコクやホーチミン、台北の中級ホテルでもついていました。仕事でも遊びでも安いホテルしか使いませんが、そろそろ、ウォシュレットが付いてなかったら軽く驚くくらいの普及率ではあります。

※2 かみさんが流すとこれが2〜3回できれいに流れるのに、当方が流するとやはり10回以上ごちゃらこがちゃらこやらなければいけない、という謎現象が漏れなく発生するという。かみさんが言うには、なにかこうコックを捻った時の力の加え加減にコツがあるというのですが、いくらマネをしてもダメ。またしても「ほんっと不器用よねー」と言われてしまいました。深夜にひとりで延々と果てしなくコックを捻り続けていると、無念無想というか無我の境地というか時が視えるというか。越しかた行く末に遠く思い馳せ、思わず遠い目になってしまいます。

※3 近年の泊まりがけの旅行で、宿泊先に不可欠な設備の1つに充電用コンセントが挙げられます。当方の場合、夜間にはスマートフォンにiPad-mini、ルーターと3つくらいは充電用コンセントが欲しいところで、夫婦での旅行となるとさらにかみさんのスマートフォン充電用のそれも加え、都合4つほど必要になります。ところがこのホテルの客室ときたら、コンセントというものがありません。ほんとうに全く存在しないんです。ならばテレビや電灯その他の電気器具のプラグをぶっこ抜けばいいじゃん、と思うでしょ。 そうは問屋が卸さないんだな。なんとこれらの機器全てが、壁に穴を開けて直接電線ケーブルを引っ張り出すという想像を絶した謎仕様。それでもようやく見つけたのが、洗面所のひげそりシェーバー専用との注意書き付きの1基のみだったのでした(※5)。

※4 フリーWi-Fiも、国内のビジホならほぼ基本装備だし、海外でも3ツ星ならば装備しておいてほしいところです。実際、バンコク、ホーチミン、台北あたりは客室内もフリーWi-Fiが飛んでいて、シーズン中ならパ・リーグTVに繋いでロッテの試合をリアルタイムで楽しむことだってできます。だったら香港でないはずがない。というか、そもそもWebで調べた観光ガイドサイトで客室内フリーWi-Fiということを確認して予約したのですから、ないはずがない。なのにない。This in HONGKONG quality(笑)。いや、厳密にいえばあったんですが、どれも有料なんです。それもいかにもこちらの足下を見た価格で、むかっ腹立てて使いませんでした(※7)。

謎と恐怖に満ちた三相コンセントに躊躇なくプラグを叩き込むの図

謎と恐怖に満ちた三相コンセントに躊躇なくプラグを叩き込むの図

※5 このシェーバ専用コンセントが3ツ穴の3相式――といっても3穴が横に並んだ不可思議な形状で、115Vと200Vという異なる電圧に対応する仕掛けらしいんですが、おそるおそるプラグを差し込み、おそるおそる手持ちの中では1番古くて仮にぶっ飛んでもダメージが比較的軽いだけど実際に飛んだら泣くスマホを接続したところ、べつだん火花も出ません。なのでようやく問題解決、とかみさんとハイタッチしたんですが、甘かった。ひとばん経ってもぜんッぜん充電されてないのよ、これが(※6)。

※6 だもんで、今度こそ腹を立ててフロントに電話をかけ、英語と北京官話のちゃんぽんで断固として果断かつ無慈悲な一撃を加えたところ、15分後にルームサービスがゆるゆる到来。そこで同氏を相手にさんざん聞き返したり筆談したりしたあげく、ついに解明されたのは、当該コンセントは洗面所の室内灯を点けている時だけ使える、謎仕様だった――という驚愕の真相。つまり、ルームサービス氏によれば、貴殿らは愚かにもけったいにも洗面所の灯を消して寝たりするからコンセントの電源も落ちてしまい充電されなかったのであろう――と。まことに遺憾である――と。そろそろ戻っていいか――と。これだけ聞きだすのに軽く20分くらいかかりましたが、まことになんといっていいやら、んもー。こんなん初めての経験でしたが、香港ではこういう仕様がふつうなのかしらん。

※7 あくまで個人的な感想ですが、香港は街中のフリーWi-Fiが少ない印象です。というか、電波はいっぱい飛んでいるけどどれもこれも有料で、スタバですら金を取りやがられます(コンビニで売っているプリペイドカードを買って記載のパスワードを入れて使うスタイル)。完全なフリーは、それこそ空港の一部のエリアとマクドナルドくらいしか見あたりませんでした。マックえらい(笑)

コメントを残す