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月別アーカイブ: 6月 2015

尖沙咀の『翠華餐廳』で食べた焼そば的なもの。翠華餐廳は香港各地にある(空港にもある)ファミレスチェーン。カツカレーとか豚骨ラーメンもあるいい加減な店ですが、安くて普通に美味しい

尖沙咀の『翠華餐廳』で食べた焼そば的なもの。翠華餐廳は香港各地にある(空港にもある)ファミレスチェーン。カツカレーとか豚骨ラーメンもある、いい加減な店ですが、安くて普通に美味しいですよ

とはいうものの。香港の古本屋事情は、実のところかなりお寒い状況です。特に日本語書籍を扱う古書店となるとどんどこ(というほどの数はもとからありませんが)数を減らしていて、いまや知るかぎりで2軒だけ。日本人にとっては古くからの定番的な観光地であり、実際に旅行者が多いのですから、日本語本を扱う古本屋もたくさんあってよさそうなものですが、ないんですよね。ここはホント昔からこんな感じで、アジア圏でみると質量ともに台北やバンコクの方がはるかに充実しています。憶測ですが、本を売り買いするほど香港に長居する日本人は、それほど多くないのではないでしょうか……。さあらばあれともあれ。その2軒が0軒にならないうちに、行かずばなりますまい(<謎の使命感)。

「翠華餐廳は飽きた」とかみさんに連れて行かれた、何とか言う有名店の名物、ナントカ賞受賞チャーハン。他にもいろいろ頼んでどれも美味しかったですが、わたしの懐は一気に厳冬に

「翠華餐廳は飽きた」と云うかみさんに連れて行かれた、何とかいう有名店の名物。ナントカ賞を受賞したチャーハンだそうで、貫録ありすぎのマダムがカッコよくとりわけてくれます。他にもいろいろ頼んでどれも美味しかったですが、わたしの懐は一気に厳冬に

賑やかなネイザン・ロードからいっぽん裏道にはいり、そのまま表通りと並行するかたちで油麻地をさらに南へくだっていきます。目的地は尖沙咀エリアだし、裏道を通ったからってショートカットできるわけではありませんが、表通りはなんだかきれい過ぎ、歩いていてあまり面白くないんですよね。人通りの多さは裏も表も似たようなものだけど、こちらに並ぶ店はあくまで小汚く油臭く、道はゴミだらけ水溜りだらけ。歩行者の人相もぐっと悪くなって喧しく、通り全体がわんわんいう猥雑な活気に満ちています。さすがに昔のようなぎらついた剣呑さは薄れましたが、それでもぼんやり歩いていると引ったくりやら掏摸やらにいつでも出会えそう。とにかく多少の緊張感をもちつつ進んでいきましょう。

洒落臭いカフェみたいなトマトブックスの入口。画面ほぼ中央、白く輝く「tomato books」のロゴが目印です

洒落くさいカフェみたいなトマトブックスの入口。左側のキンキラキンが車寄せ入口。その向こうの画面ほぼ中央、白く輝く「tomato books」のロゴが目印です

当面の目的地は漆咸道(チャタムロード)沿いにある「ラマダホテル九龍(カオルーン)」。地下鉄駅でいうと「尖沙咀」駅から徒歩10分ちょっとの、尖沙咀としてはやや辺鄙なロケーションで、ホテルじたいも中規模クラスの観光ホテル(ただし金ぴか)ですが、その地下に古本を扱う日系書店『トマトブックス』さんがあるのです。ただし、ホテル自体は漆咸道に面しているものの、その正面入口から入っても書店へは行けません。右手へ進んでホテルの建物を左へ回り込むようにして行くと、キンキラキンに輝く車寄せ入口があり、その並びに「tomato books」の入口があるんですね。洒落臭いカフェレストランみたいな店構えですが、実はここ、日本人にはおなじみのカフェレストラン『イタリアン・トマト』が経営するお店なのですよ。

地下1階のトマトブックスへつづく階段。壁にはお店の由来が書いてあります

地下1階にあるトマトブックスへつづく階段。壁にはお店の由来が日本語と英語で書いてありますが、中国語はなし。なんで?

どうしたって古本屋とは思えない――どころか新刊本屋にも見えないお洒落な入口を抜けると、輪をかけて洒落くさい階段が地下へとつづいています。見ると右手の壁にこのお店の由来が書いてありました。曰く、トマト・ブックスは香港へ展開したイタリアン・トマトでレストラン業務を管理していた方が、香港在住日本人のためにこしらえた大型書店である由。わたし自身の記憶では、開店当初のお店はもっと尖沙咀駅そばの繁華な場所にあったはずですが、2013年に現在地に移転したのだとか。移転後は売場が広くなったこともあり、従来の日本の雑誌・書籍、雑貨類に加え、禅スタイルをモチーフにしたイベントルーム(?)とカフェ、キッズエリア等も設置したのだそうです。こうした多角化によって付加価値を加えていく店舗戦略って、近年の日本の大型書店のそれにそっくりですね。国際的な流れみたいなものなんでしょうか。

地下1階の「トマトブックス」入口から店内を望む

地下1階の「トマトブックス」入口から店内を望む。古本屋探索人にはきれいすぎていささか敷居がたかい感じです

たどりついた地下一階は、どうやらこのトマトブックスがワンフロア全てを占めているようで、売場はかなり広く、香港の書店としてはおそらく中文書店もふくめ最大級と思われます。重厚な入口ドアを抜けると、すぐ左手にケーキ類をならべたショーケースにテーブルもおいて、かわいいカフェコーナーとなっています。さらに右手は生活雑貨のコーナーで、一見書店には見えません。正面奥へ進むと、ようやく書籍、雑誌が並んでいました。雑誌やマンガにハードカバーや文庫の新刊も充実し、日本の中規模クラスの書店にも引けを取りません。低い棚にゆったり本をならべ、こぎれいなイマドキのブックカフェという感じですが、まあ、そんなことはどうでもよろしい。どんどん歩を進め、店のいちばん奥、左手方向に突き進みましょう。するとにわかに灯が暗くなり黄ばんだ色に変わって、書棚もぐっと背の高いものに変わります。お待ちかねの古本コーナーです。

本棚と本棚のあいだが広く、床に本を積んだりしていないので、歩きやすいのはよいですね。そのぶん「どこに何があるか分らないドキドキ感」は薄いですが

本棚と本棚のあいだが広く、床に本を積んだりしていないので、歩きやすいのはよいですね。そのぶん「どこに何があるか分らないドキドキ感」は薄いですが

そこだけ妙に飾り気なく、無愛想に本棚を立て並べただけの小部屋状のスペースです。広さはざっと中規模クラスの古書店なみでしょうか。壁三面のほか三列の書棚が、通路も広くとってゆったり立ち並び、床積みしていないフローリングの床も清潔で、たいへん上等なブックオフといったおもむきです。品揃えは全体の半分がコミック、残り半分の活字本のうち半分が文庫。さらに残り4分の1のこれまた半分が雑誌やムック類で、残り(つまり全体の8分の1)が単行本という案配。並んでいる本のジャンルは、ビジネス書に経済小説、そして時代小説が大半で、ちょぼちょぼと申しわけていどにミステリその他のエンタテイメントがあります。全体に、いかにも香港駐在中の日本人ビジネスマンが売り飛ばした本という感じで、正直掘り出し物は期待できそうもありません。

ハードカバーの棚。ビジネス書、経済書、時代小説。『楊令伝』とか『三国志』(宮城谷版)が並んでいますね。ミステリは宮部さんのものが多かったです

ハードカバーの棚。ビジネス小説、経済書、実用書、時代小説。『楊令伝』とか『三国志』(宮城谷版)が並んでいますね。ミステリは宮部さんのものが多かったです

それでも30分ほどウロウロしたでしょうか。3冊ほど(※1)選んで笑顔の姑娘に包んでもらい、店をあとにしました。釣果といえるほどの買物ではありませんが、「全品10ドル(香港ドル)均一」(※2)なので、全部で500円弱。そう考えれば、じゅうぶん満足できる探索でした。そもそも当方の経験上、海外古書店では日本語書籍の掘り出し物などほとんど期待できません。だからこそ出会えた時の喜びは大きいわけですが……まあ、そんな期待は持たない方が心はやすらかでしょう。とにかく500円そこそこでじゅうぶん楽しませてもらったのは間違いありません。古本屋として見るとブックオフの海外店ふうの物足りなさはありますが、きれいな、ほどよく落ちついたよいイマドキ書店なのはたしかです。香港在住の日本人にとっては大切なお店なのではないでしょうか。なお、今回はいけませんでしたが、香港にはもう1軒、『寫樂堂』(※3)という日本語書籍を扱う古書店が香港島側にあります。小さな店ですが、ここはここで面白いので、訪港の機会がまたあったら、ご紹介いたしましょう。

左から、ウィリアム・L・デアンドリア『ウルフ連続殺人』、江坂遊『ひねくれアイテム』、P・G・ウッドハウス『笑うゴルファー』

左から ウィリアム・L・デアンドリア『ウルフ連続殺人』、江坂遊『ひねくれアイテム』、P・G・ウッドハウス『笑うゴルファー』……変な取り合わせですね

※1 江坂さんのショートショート集以外はダブりです。デアンドリアの『ウルフ連続殺人』は、傑作『ホッグ連続殺人』のシリーズ作品とはとうてい思えないスットコ作で、古本屋でもあまり見かけないのでなんとなく買いました。『笑うゴルファー』は、なぜかウッドハウス読みたくなって「帰りに読む」用に

※2 1香港ドル=15~16円くらい(2015年6月)

※3 寫樂堂の顔本をみるとなんだかアイドル雑誌専門書店みたいですが、ふつうの古本もあった、はず(笑)