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月別アーカイブ: 1月 2013

a中学時代の終わりのころ、カンフー映画が大流行しました。きっかけはもちろん『燃えよドラゴン』。ブルース・リー主演のこの映画が大ヒットして(1973年)、それまで日本ではほとんど知られてなかった功夫片、カンフー映画(当時はカラテ映画と呼んでました)が大ブームになったのです。でも、その『燃えよドラゴン』を、自分は最初見に行きませんでした。 当時すでにいっぱしの映画ファンを気取っていた自分は、中国人が主人公の香港映画なんてなにかこう鈍くさいと思ってたんですね。われながら鼻持ちならぬ馬鹿ですが、見た友だちが口を揃えて「すげえつええ!」「すげえかっこいい!」「とにかくすげえ!」というので、半信半疑で見に行って、いっぺんにやられました。このあたりの衝撃の大きさは、同世代でないと想像しにくいでしょう。まあ……神降臨と。それくらいの衝撃だったと言えそうです。でかい白人をかっこよく叩きのめす主人公がとにかく新鮮で、しかもかれが小柄で細身の黄色人種であることが、“もしかしたら自分も、ああなれるんじゃないか”という錯覚を大いに誘発してくれたのです。

かくてめでたく大ブーム到来となったわけですが。思い返してみると、あのブームってほんの一瞬のことだったんではないでしょうか。ご承知のとおりブルース・リーは当時すでに亡くなり、主演作じたい数本しかありませんでしたから、あっという間に弾が尽きてしまうと、あとはもう似て非なるB級作品のオンパレード。××ドラゴンとか燃えよ○○とか殺人△△拳とか、じつに適当なタイトルのカンフー映画が次々公開され、それらをまた飽きもせずに摂取し続けたのでした。まあ、当時はブルース・リー的な何かが出てくれば満足していたわけですが、さすがにそれを延々と何の工夫もなく繰り返されるとうんざりしてきます。なにしろあの頃のB級功夫片のほとんどは、そりゃもう泣きたくなるほどワンパターンで大雑把で、安っぽく泥臭く。李小龍魔法が消えてしまえば、こども心にもトホホなしろものばかりでしたから(※1)。しかし、そんな中にもごくごく稀にはキラリと光る作品もないではない。そんな数少ない功夫片の1つが、梁小龍(ブルース・リャン)の『帰ってきたドラゴン』(※2)でした。

『帰ってきたドラゴン』の梁小龍。役名はゴールデン・ドラゴン

『帰ってきたドラゴン』の梁小龍。役名はゴールデン・ドラゴン

『帰ってきたドラゴン』は、香港映画のトッププロデューサーである呉思遠(ウー・スーユエン)が、監督時代にこしらえた功夫片。宝物を取ったり取られたりしながら、正義の味方・梁小龍(ブルース・リャン)と敵役の和製ドラゴン・倉田保昭さんが闘いまくるという話で、当時はわたしも梁小龍なんて知りませんから、倉田さん目当てで見に行きました。梁小龍という名前といい劇中のゴールデン・ドラゴンという役名といい(※3)、ブルース・リー(李小龍)のパチモン感満点でしたから。ところが武闘シーンを見てたまげました。圧倒的に鋭く、早いハイキックに、敵役の頭上を軽々と超えていくジャンプ。また、走っては闘い走っては闘い、地形を利用して千変万化する(※4)スピーディかつ変化に富んだ殺陣も非常にユニークなものでした(※5)。実はこの梁小龍は、李小龍(ブルース・リー)、成龍(ジャッキー・チェン)とともに「三龍」と呼ばれ、一時は香港映画最強の男とも言われた実力派武打星でしたが、日本ではブルース・リーのパチモン視されたあげくカンフー映画ブームも終息し、人気が出ないまま忘れられてしまったのです。

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『カンフー・ハッスル』では火雲邪神役。ラスボス的悪役ですね

その後も、ずいぶん香港映画を追いかけましたが、梁小龍の名前を意識することはありませんでした。何でもこのひと、実際に強いだけでなくやたら喧嘩っ早かったそうで、その手のトラブルが絶えず、ギャングを何人も叩きのめして黒社会に狙われたりしていたのだとか。一時は身の危険を感じて海外へ行方をくらませていた、と言うのですから本格的です。それだけに『帰ってきたドラゴン』から30年も経って周星馳(チャウ・シンチー)の『カンフー・ハッスル』で再見した時も、最初まったく気付きませんでした。いや、それどころか実際にスクリーンで火雲邪神(※6)役を演ずる姿をみても分からなかった。だって変わり過ぎでしょう。いくら30年ぶりといったって、あの溌剌たる若者が禿げたおっさんなんだもの。ご存知のとおり『カンフー・ハッスル』は日本でも大ヒットしましたが、梁小龍はその後、またしばらく行方知れずになったりしたらしく、何本か出演はしたものの、さしたる話題にはならなかったようです。それだけにこの正月、『燃えよ!じじぃドラゴン 龍虎激闘』でかれと再会した時は、わけもなく感動しました。

ポスターでも、メインに梁小龍のハイキックをフィチャー

ポスターでも、メインに梁小龍のハイキックをフィチャー

『燃えよ!じじぃドラゴン 龍虎激闘』(※7)は、2010年製作の“あの頃”のカンフー映画です。あの頃つまり70年代の、ワイヤーアクションもCGもなく、全て俳優が身体ひとつで闘い演じていた功夫片です。監督は若い方ですが、功夫片へのあふれる愛とリスペクトで、かつての輝ける武打星たちをスクリーンに蘇らせ、あの頃の映画を作り上げています。チープな原色影絵のオープニングクレジットに、無駄に仰々しいナレーション。途中で流れが変わってしまう行き当たりばったりのストーリー。安っぽく大げさな効果音。そして何より、あの頃の輝ける武打星たちの衰え知らぬアクション。とくに主役たる梁小龍の足技を見ていたら、本気で泣けてきたものです。腹の出たヨレヨレの爺いになっても、なお鮮やかなハイキック!――ラスト、若い強力な拳士と死闘を繰り広げた梁小龍は、汗と血と鼻水でどろどろになって倒れ、横たわったまま涙を流し、呵呵大笑します。それはまるで、香港映画界最強を謳われながら国際スターにも伝説にもなれなかったかれ自身の、過ぎ去っていった半世紀を笑っているかのようでした。

 

※1 成龍、ジャッキー・チェンの本格的な活躍はさらに数年あとという印象です。

※2 『帰ってきたドラゴン』(1973) http://www.youtube.com/watch?v=bFP_-zwrE_s

※3 ちなみに倉田さんの役名はブラック・ジャガー。どちらも小学生レベルの適当な命名ですね。

※4 左右の壁に手足を突っ張らせてよじ登る技は「壁虎功」。『帰ってきたドラゴン』には、登っていった壁の途中で中空に立って闘うという無茶なシーンがあります。後ろ姿の場合もスタントは使っていないそうです。

※5 「ハイスパート・カンフー」と呼ばれるこのスタイルは、後にジャッキー・チェンのアクションスタイル(『プロジェクトA』など)に影響を与えた感じです。

※6 http://www.youtube.com/watch?v=CuNl7SRdt3k 4:10過ぎに登場するランニング姿のおっさんです

※7 http://www.youtube.com/watch?v=wxUSH55JVVE 他にも懐かしくて涙ちょちょぎれる(<古語)懐かしの武打星が大挙して登場し、大暴れしてくれます。映画としてはグダグダなので見る人を選ぶのは確かですが……そのぐだぐだまで含めて、あの、映画なのです。70年代に少年時代を過ごした男子は必見ですよ。

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ゆいレール「安里」駅。わたし、ここの自動改札で切符を食いちぎられました

「国書房」さんの名は聞いたことがあります。しかし、このお店はそもそもほとんど情報がなく、足が不便な印象ばかり強くて、なんとなし敬遠していたのです。慢心慢心。あらためて場所を調べてみると何のことはない、「県庁前」駅から3駅5分の「安里」駅から徒歩10〜15分ですから、むしろ近場です。これなら国書房が朝10時までに開店してくれさえすれば、そして開店と同時に入店し30分ほどで離脱できれば、昼前の飛行機にも十分間にあいます。では、いったい何時開店なのか。焦りつつwebで調べましたが、どうしてもわかりません。経験上「ハードコア古書店」と呼ばれるようなお店は、やはり開店時間は遅いもの。ここはやはり、開いているのが確実なちはや書房さんを再訪するのが合理的でしょう――が、しかし。その賢明な、安全策ってやつが気に入りません。むしろ常道を踏み外してこその漫遊記ではなかったか。「青春は決して安全な株を買ってはいけない!」と明子姉ちゃんも言ってます(※1)。

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なぜだか古本がちょびっとだけ置いてあるTシャツプリント専門店「アリス」さん

明子姉ちゃんの助言に従い、すばやく荷物をまとめた当方は、すばやくチェックアウトし、すばやく県庁前駅を目指します。通勤時間帯だけにやや混み加減の、とはいえ普通に座れるゆいレールに乗り込んで、いざ安里へ。――といってる間に5分ほどで到着(左上写真=安里駅)。拍子抜けまくりの近さです。さて……飲み屋街やら市場やらがあるこの町に、当方は、ほんの少しだけですが土地勘があります。以前一度ふるほん漫遊で訪れたことがあるのです。当時のふるほん漫遊のお供だった『ミステリーファンのための古書店ガイド』(※2)で「古本も置いているプリントショップ」と謎な紹介をされていた「アリス」さん(左写真 2008年当時)をお訪ねしたのです。ところが、なんとこちらはまんまそのままTシャツプリント店で、置いてある古本は数冊という盛大な空振り。激しく脱力したものです。しかし、今日は違います。なんたって目指すは「沖縄きっての ハードコア古書店!なのですから!

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開店時間までテコでも開かないダンコたる姿勢をあらわにする国書房さん

開店時間は不明のままですが、とにもかくにも賽は投げられ、われらはルビコン川を渡ったのです。人影少ない朝まだきの飲み屋街をごんごん進み、学校校舎の脇を通り、川を渡って住宅街を抜け、ささやかな大通りにぶつかってこれを右に折れると小さな商店街に出ました。時間はそろそろ10時です。さらに足を速めて進むと、ふいに大きな青い看板が目えました。「古本 LD レコード CD買入」。おお、これが、これが憧れの「安里古本センター 国書房」!でしたが……やんぬるかな、閉まってます。シャッターはぴしゃりと下ろされ、開く気配などカケラもありません。3階建てのビルの1階全フロアが国書房のようですが、2〜3階は保育園で、こちらは元気いっぱい子どもたちの歓声が響いています。なのに1階の方はしんと静まり返ったまま、動きは全くありません。10時半まで待ってみようか――いや、しかし、もう時間が。この墓場の如き雰囲気では、開店は早くて11時というところでしょう(※3)。もはやこれまで。われらは賭けに負けたのです。 当方は潔く見切りをつけ、踵を返して駅方向へ向かいました。

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「国書房」全景。2〜3階は保育園

ふるほん漫遊において、このような空振りは日常茶飯事(※4)――ではありますが、那覇ともなると滅多に来られぬので、悔しさもひとしおです。だいいち時間はまだ30分弱残っています。ちはや書房さんを再訪するほどの余裕はないけれど、どこか途中の店ならば、なんとか寄れなくもないではないかも知れないではない。たとえば――ついさっき、安里駅に到着する直前のゆいレール車上から目撃した「BOOKOFF」ならば! というわけで。切り替えの早さには定評のある当方、安里駅を目前に大通りを左へ。と、すぐそこに、懐かしくも心強いBOOK OFFの看板が見えました。「BOOK OFF 那覇ひめゆり通り店」さんです。むろん躊躇なく飛び込んで、さて。ここも規模は小さい方でしょうか。どこといって変哲のないBOOKOFFです。品揃えも凡庸で、素早く1回ローラーをかけただけでは引っかかってくる本は何もありません。さらに2度、3度。やはり何も見当たりません。残り時間はほとんど尽きてきましたが、うぬーん。ここは何としても買い物をしておきたい気分です。

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安心のブランド「BOOK OFF」那覇ひめゆり通り店さん

ならば、と児童書売場に向かいます。万にひとつ、クロフツの古い児童向けのアブリッジが転がってるかも知れないし、あかね書房の『少年少女世界推理文学全集』の端本が息を潜めている可能性だって、まったく無いとは言えないはずです。児童書売場の棚は小さいので、ローラーをかけるのも簡単ですが、やはりそう上手くはいきませんね。総じて並んでいる本が新しく、古いものといえば、せいぜいずらり並んだポプラ社版の『ルパン全集』くらい……。1971年に刊行が始まったポプラ社のこの『怪盗ルパン全集』は、少年少女向けのアブリッジながら、ルブラン以外の作も含めルパン・シリーズの大半を網羅した全30巻の大全集。ルパンにはあまり興味がない当方ですが、70年代にボワロ=ナルスジャックコンビが「アルセーヌ・ルパン」名義で発表した5作を収めた26〜30巻(※5)の、特に他に邦訳がなく、この版でしか読めない最終巻『ルパン危機一髪』ならちょっと読んでみたいかも……って、ここにあるこれがそうじゃん!

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左が『ルパン危機一髪』。右は前日、ちはや書房で買った番町書房版『スターベルの悲劇』

たしかにポプラ社の、これは『ルパン危機一髪』です。お値段だってもちろん100円。入手難というほど珍しい本ではないけれど、ミステリ系の古本屋さんで探せば千円やそこら取られそうです。最後の土壇場で巡り合えた起死回生の1冊。『ルパン危機一髪』とはまた、まさにそれに相応しいタイトルだったといえるでしょう。その後、スキップしながらルパンを持って行ったレジの店員さんが新人で、レジの打ち方が分からず上司?に聞きに行ったあげくさらに失敗を重ねて大騒ぎ。大慌てに慌ててゆいレールに乗ろうとしたら、今度は自動改札で切符が引っ掛かって足止めくらい、あげく機械の中から引きずり出された半分に千切れた切符を渡さのおかげで空港駅でも引っかかり……等々等々。さんざん時間を無駄にしてしまい、とうとう家族への土産も買えずに大慌てで帰還する羽目になりましたが……まあそこはそれ。スリルとサスペンスをたっぷり堪能しましたし、素敵なお店や新たな開拓目標まで見つけられたのも事実。まずは充実の、ふるほん漫遊だったといえるでしょう。

※1 マンガ『巨人の星』で明子姉ちゃんが伴宙太にこういって忠告する。引用元はジャン・コクトーですね。明子姉ちゃん、コクトーなんか読んでたんだなあ。そういえば、飛雄馬の想い人である美奈さんもコクトーの詩(私の耳は貝の殻、海の響きを懐かしむ……)を愛唱していましたね。

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『ミステリーファンのための古書店ガイド』05年1月初版 光文社刊
右はこの本を入れている年季の入り過ぎた革製ブックカバー

※2 『ミステリーファンのための古書店ガイド』野村宏平 著 光文社文庫刊:当時ほとんど唯一の情報源としていたガイドブック。これ1冊持って日本中を漫遊して歩いたのです。

※3 あくまで「感じ」です。正確な開店時間はいまだ不明です。お店にご確認ください。

※4 負けて腐らず買って驕らず七転び八起き七転八倒こそ、ふるほん漫遊の極意なのです(<意味不明)

※5 ポプラ社の『怪盗ルパン全集』の末尾26〜30巻は、70年代にボワロ=ナルスジャックコンビが「アルセーヌ・ルパン」名義(作者名がアルセーヌ・ルパン)で発表した5作が含まれています。この5冊のうち、上記『ルパン危機一髪』以外の4作は他の版(新潮文庫など)でも読めます。ところが、最終巻の第30巻『ルパン危機一髪』だけはこのポプラ社版しか邦訳がありません。

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世界遺産だそうです

うぬーん、悩ましい。ちはや書房の店主氏ご紹介の店、言事堂(※1)は今いる場所からさほど遠くはないようです。あの店主さんが勧めてくださるのですから、きっと素敵なお店なのでしょう。行きたいのは山々です。山々ですが、いかんせんもう時間がありません。とりあえず昼飯を済ませなければ、夕方まで栄養補給の機会はないのです。それに、ディレクタ氏との待合わせも初めていく所なので、できれば余裕を持って着いておきたいところです。とにかく、まずは食事できる所を――と思ったのですが、焦って捜すとどうにもお店が目に入りません。目に付くのは閉まっている所ばかりで、人に聞こうにも誰も歩いていません。地方ではよくあることだけど、まさか那覇市内で昼飯難民になろうとは……。ちはや書房さんが開いていたのが、僥倖だったとさえ思えてきます。そんなこんなで、不案内な土地をあたふたうろうろするうちに、とうとう時間切れ。当方は空き腹のまま、待合わせ場所に向かうことになったのでした。

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この外壁をどうやって3Dスキャンするのか

ともあれ、当然ながら仕事最優先です。幸い待合わせ場所はすぐに見つかりディレクタ氏と時間通りランデヴーした当方は、簡単な打合せの後、まずは取材先である某測量会社の那覇支店へと向いました。空き腹を抱えたままそこで1時間半ほど取材し、すぐに件の会社が作業中の現場へ向かいます。広大な米軍基地を横目にクルマを1時間半ほど走らせて、たどり着いたのはうるま市の勝連城跡(写真左上&左 ※2)。この城跡で3Dレーザスキャンによる石垣積石の悉皆調査(※3)が行われているのです。当方のミッションは、同現場のエンジニア氏から、3Dデータを処理する特殊なソフトウェアの活用法や使用感を伺い、記事に仕立てるというもの。ややマニアックですが、現場のお話はスリルとサスペンスに富んで実に面白く、お腹はぺこちゃんですが楽しい仕事となりました。ひと通り取材撮影を済ませるともう夕暮れ時。今度は那覇へとんぼ返りしてさらに別件の打合せ済ませ、ようやくミッションが終わった頃には、時計の針は午後7時を回っていました。その後、現地の営業氏ご推薦の居酒屋にディレクタ氏と2人で繰り込んだ当方が、後先考えずに鯨飲爆食してしまったのは言うまでもありません。

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盛りつけに失敗した例

明けて14日。ビジネスホテルの朝といえば、何と言っても朝食バイキングです。もちろんオニギリもしくはトーストにみそ汁、コーヒーというアレではなく、オカズもいろいろ付いてなければバイキングとは呼べません。予算に限りはありますが(クライアントからは、おおむね1泊6千円以内に抑えることを求められます)、最近は空調Wi-Fi完備の禁煙ルームでバイキング朝食が付いて6,000円以内のお値打ちプランがいくらもあります。今回も交通至便な「県庁前」駅徒歩5分のビジネスホテルで、こうしたプランを見つけて予約した次第。バイキングの方はロケーションが良いぶん品数的にやや寂しいメニュでしたが、それでも沖縄そばにマンゴー、シークヮーサージュースが“気分”です。美味しく楽しくいただきつつ、本日の作戦を練りましょう。午後に東京で打合せがあるので、飛行機は那覇を昼ちょっと前に発つ便を取ってあります。つまり、自由時間はおおよそ11時過ぎまでの数時間までということになります。

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警戒して目を合わせようとしない猫

ここで問題になるのは、古本屋さんの開店時間です。各位もご存知のとおり、日の出と共に目覚める早起き古本屋さんというのはあまり聞かぬもの(※4)。開店は早くて10時。昼から開けるというお店も多いし、午後2時3時からシャッターを上げるお店も少なくない。中には開店時間は気分次第という店だって無しとはしません。――と、なると。空港までの所要時間その他を勘案すると、制限時間内で回れるのは同一地域内の2軒がせいぜい。たとえばちはや書房さんを再訪すれば、もう1軒は言事堂さんしか回れないでしょう。もちろんそれも良いのですが、調べると言事堂さんは美術書・工芸書主体らしく、当方の守備範囲からやや外れています。どこか近場で未開拓の面白げな古本屋さんがあるなら、いっそそちらで運試しと行きたい気分もないではないのです。迷いつつwebであれこれ調べ回るうち、とあるブログ(※5)でこんな記述を見つけました。「ぼくは国書房を、沖縄県で最も抜きん出た「ハードコア古書店」だと思う」……ぬう、 ハードコア古書店! (つづく……たぶん次回完結)

※1 言事堂 残念ながら行けませんでした。次回は必ず。http://www.books-cotocoto.com/pineapple1/

※2 勝連城跡 世界遺産登の城跡です。 http://www3.ocn.ne.jp/~ktm/

※3 悉皆調査 データを余すところなく全て調べる調査のこと。この場合は、城の石垣の石積み1個1個の大きさ形積み方をそのまま調べて記録し、後の保護管理修復のための「石積みカルテ」というものを作成する由。

※4 古本屋さんに限らずそんな店はコンビニ以外ではあまりない。でも、古本コンビニがあったら……それはちょっと嬉しいかもしれません。

※5 「亜熱帯成層圏RETURNS」 http://ameblo.jp/westwoodmiller/entry-10544587178.html

CIMG1383それにしても人がいない町です。やたらきれいに晴れ渡った夏空みたいな空のもと、 昼前の半端な時間とはいえ猫の子1匹歩いていない若狭大通りを西方向へ進んでいきます。と、すぐに左手に、いい感じに時代色の付いた那覇中学校の校舎が見えてきました。めざす古本屋さん「ちはや書房」さんは、その那覇中学校の向かい側、若狭大通り沿いに看板を上げていました(※1)。 さて、お手並み拝見です。シンプルな木箱に詰めた店頭均一台は、文庫本に新書、単行本、絵本など並べて50円均一。アルミサッシの入口は広く開放され、店内までそよ風が吹いているようです。陽射しを避けて一歩足を踏み入れると、ひいやり涼しい暗がりが嬉しいですね。間口はさほど広くありませんでしたが、店は意外なくらい奥行きがあり、奥の方はうっすら闇に沈んでいます。3面に高い書棚を並べ、店奥には背高の棚を互い違いの半島型に、手前には低めの棚を小島のように配置したこれは「半島+群島型」といったところでしょうか。「いらっしゃい」と声をかけてくれた店主氏は入口左手前の番台で、パソコンに向かって作業しておられます。

CIMG1387ざっくり見わたすと、いい感じに古びてはいますが、清潔で趣味のいい店内は、なかなかに考えられた店づくりがされています。表に面した前面は、前述の通り低くオープンな棚にカラフルな絵本や写真集、表紙を見せて配置。そこここに洒落た雑貨や文具を並べ、額に入れたスケッチなども飾り付け、高い天井から楽しげな帽子までぶら下がっています。一見、当方がいささか苦手とするオサレブックカフェ系の店に見えましたが、店の奥へと足を踏み込むと雰囲気は一変。壁際や店最深部に立ち並ぶ背高書棚のフィヨルドゾーンに、選びぬかれてほどよく濃い本たちが並んでいるのです。手前右手の水木しげる作品が見事にそろったマンガ棚から文学、ミステリ、SF、幻想小説、怪奇小説、評論に郷土もの等々、あまり見かけない絶版ものも点々と配され、奥には黒い本もどっさりあります。しかも一見、無造作に放り込まれたようでいて、どこか「物語」を感じさせる本の配置は、見ているだけで楽しくなってきます。

CIMG1390むろんミステリも、多くはありませんが良い筋の本が丁寧に選ばれて並んでいます。当方のようなごく浅いファンでも、店主氏の趣味の良さとなみなみならぬこだわりぶりははっきりと感じ取れ、しかもお値段も総じて東京よりぐっとお安い。とにかく棚を見ていくだけでわくわくしてくるこの気持ちは、当方にとっても久しぶりです。それやこれやで、気付くとたちまち1時間以上も過ぎていました。食事も済ませておきたいし、残り時間はさほどありません。むろんほしい本はいくらもありますが、これからすぐ仕事だけに正直あまり大荷物は作りたくない。そこでとっさに明日もう一度訪ねようと決め、今日のところは未入手だったクロフツ一冊を手にレジへ向かいました。……しかし、それにしても那覇にこんなお店があったとは。不明を恥じつつ、せっかくなので店主氏に話しかけてみました。「こちらは初めてお邪魔しましたが、素敵なお店ですね」。店主氏がにこりと笑顔になりました。

CIMG1393「ありがとうございます、お客さんは東京からですか?」 「ええ、出張のついでにちょっと時間があったので寄せていただきましたが、素晴らしい本がたくさんあって驚きました。いつごろからこちらにお店を?」 「2006年からですから、もう6年になります。実はそれ以前は別のオーナーさんが、やはり古本屋さんをやっておられた(※2)のですが、閉店されるというので」 「そうでしたか、以前のお店もこういう感じだったんですか?」 「いえ、以前は半分くらいはアダルトものが並ぶふつうの古本屋でしたが、いまは完全に私の趣味で統一してしまいました」 「水木しげるさんの本がすごいですね」  「ありがとうございます。水木しげるは大好きで、ずっとコレクターだったので……気に入ってもらえれば嬉しいです」 さすがにお店のことを話し始めたら談論風発。大いに楽しい時間をすごし、気付いたらもう余裕がほとんどありません。再訪を約して店を後にした当方の背に、店主氏がまた声をかけてくれました。 「このすぐ先に言事堂さんという古本屋さんがあります。お時間があったらぜひ、そちらも」 (つづく)

※1 ちはや書房HP http://www.chihayabooks.com

※2 先代の店は「文華堂」という店名だったようです。ということは、前回ご紹介した「文華堂ダイエー前店」の姉妹店だったのか知らん。確認しそびれたので、どちらとも分かりません。次にうかがったとき聞いてみましょう。ちはや書房の「ちはや」は、業平からかなあ(ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みずくくるとは)。これも未確認です。

CIMG5357“諸國ふるほん漫遊記”は、初代Junkland時代からつづけてきた息の長い企画のひとつです。読んで字の如く、あちらこちらの古本屋さんをお訪ねする探訪記ですが、基本的には仕事のついでに立ちよるケースがほとんどで、都内や地元以外では“そのため”だけに出かけるということはあまりありません。だから、たいていは無理矢理こしらえた空き時間に息せき切って店に駆けつけ、スバヤク一巡して急ぎ足で引き上げるという、やたらせわしい探訪になりがち。いきおい内容じたいはたいして濃くもない、薄っぺらなお遊び探訪記になりますが、とりあえずそのフィールドだけはめっぽう広いのが自慢です。北海道から九州、沖縄、その離島、そしてソウル、上海、台北まで、各地の古本屋さんをご紹介できるだけのストックがあります(※1)。そういうわけで。LT3移籍後初の「ふるほん漫遊記」は、この際ですから「うんと遠いところ!」というわけで、沖縄・那覇篇から始めてみます。(写真は、今は無き世界一小さな古本屋「まちぐゎーぶっくかふぇ とくふく堂」※2)

CIMG802411月13日(火)。朝8時半発の飛行機で沖縄を目指しました。今回は某ソフトウェアベンダーの依頼で、同社の製品を使用中の企業の現場を訪ね、その使い心地など取材して事例記事に仕立てようという仕事です。通常、国内での取材なら(時に国外でも)どこでも日帰りが基本ですが、今回は泊まりです。なにしろ取材先が空港から遠く、しかも取材対象のエンジニア氏が夕方しか時間が取れず、さらに取材後も那覇で別件の打合せが必要、ということで、やむなく後泊の許可がいただけた次第。――となると。取材が始まる午後も遅めの時間にさえ間に合えば、それでいい分けよね? とすかさず悪魔が囁きます。たとえば、ぐうぜん早めに着いてしまって時間が余り、なんとはなしに周辺をぶらついていたらたまたま古本屋さんを見つけ吸い込まれるように入店した、としても、誰がかれを責められようか! そういうわけで。待合わせは午後夕方近くにもかかわらず、早起きして朝8時発の便に乗り込んだのでした。(こちらはとくふく堂内観の写真)。

CIMG80212時間半ほどのフライトを終えて、沖縄、那覇空港着は午前11時20分。東京はもう上着なしでは歩けない寒さでしたが、那覇はさすがに温かいですね。さて、問題の待合わせ時間は、ゆいレール「美栄橋」駅近くの某所に午後2時。美栄橋駅は、那覇市の中心地「県庁前」駅の1つ先で、ゆいレールでは那覇空港から15分程度です。つまり2時間ちょっとのフリータイムを確保できたわけですが、ふるほん漫遊をし昼ごはんも済ませるとなると、さほど余裕はありません。特に那覇の古本屋さんは、市内に限っても微妙に広い範囲に点在しているため絞り込んでおく必要があるでしょう。できれば待合わせ場所近辺、つまり美栄橋駅周辺のお店を回るのがいちばん安全かつ合理的ですが……。調べると美栄橋駅周辺に3店ほどの店が見つかりました。うち1店、駅東側の「文華堂ダイエー前店」さん(写真は2008年10月頃)は、以前一度お邪魔しました(※3)。ならば今回は、その反対側の駅西側を攻めようではありませんか。

CIMG8065早速、ゆいレールで美栄橋を目指します。途中の「赤嶺」駅のそばにも「ブックオフ那覇小禄店」さんがあり、ここも2度ほど訪ねました(写真は2008年10月頃※4)が、今日は時間がないので見送り。帰りにもし余裕があったら寄りましょう。さらに2つ先の「奥武山公園」駅そばには「我楽多文庫」(写真は2008年10月頃)という古本屋さんもあります(※5)が、ここも同じく帰りに余裕があったら参ります。というわけで15分弱、運賃290円で美栄橋に到着しました。降りたのは、当方ひとりのようですね。かねて用意の地図を見ながら駅の西側に降り、川沿いに北西方向へ真っすぐ進んでいきましょう。お昼前という中途半端な時間のせいか、クルマはそれなりに走っているものの、人の姿がほとんど見あたりません。7~8分歩いてやがて大通り(若狭大通り)といっても知れていますが、これにぶつかったところで左折。左手に中学校の校舎が見えてくると、目的地はもうすぐです。(つづく)

※1 要するに行くだけ行ってレポを書いてないところが多すぎ。

※2 とくふく堂 かつて牧志公設市場のアーケードにあった「世界1小さな古本屋」さん。アーケードが好きなので何度もお邪魔しましたが、本当に2人入店したらぎゅうぎゅうの小さなお店。本は郷土モノが多かったかな。お店は2011年に休眠し、別の古本屋さんに引き継がれました。

※3 文華堂ダイエー前店 活字本、コミック、アダルト、ゲーム、ミュージックCDがそれぞれ同じくらいずつある複合店スタイルの「町の古本屋さん」。郷土史ものなど、堅い本もおいてあります(2008年当時)

※4 ブックオフ那覇小禄店 お店の半分が古着屋さんで、ブックオフとしてはやや規模小さめのお店。品揃えは本土のブクオフと変わりません。ゆいレールから見えるので、時間があるとついつい下車して行ってしまうのですね。

CIMG8012※5 2008年に一度だけ訪ねましたが、折悪しくお休みでした。