そんなわけで。一時間ちょっと、どこに何があるか分からない古書市ならではの意外な出会いを堪能しつつ、ふるほん成分をたっぷり摂取し、おなかも心も楽しく満ちたりて少しばかり落着いてくると、ようやくいろいろなことが目に付き始めました。そうやってみるとこの「つちうら古書倶楽部大古本祭り」、数多ある古書市や古本祭りのなかでもちょっとばかり特異な感じがします。まず、駅から徒歩5分の元アミューズメントスペースというロケーションがおもしろい。神保町や古書会館のような、古書のための専用スペースではもちろんないし、デパートのような大都市の高級感ある売場というわけでもない。いちばん近いのは新橋駅前広場で行なわれる古書市でしょうか。でも、新橋はあくまで都心だしビジネス街なのに対して、こちらはさらに俗っぽく、やや侘びしく(笑)、生活感にあふれています。客層もずいぶん違います。通常の古書市はやはり古本極道ら筋モノの方々が中心で、静かな中にも常に一触即発の緊張感が漂っていますが、こちらでは、そんな雰囲気は微塵もない。昼下がりのブックオフ以上にゆるーい感じなのです。
老夫婦が楽しそうに時代小説や歴史書を探し、買い物帰りの奥さまが幼児の手を引きつつ絵本を探しています。学校帰りの小中高校生も、漫画の立ち読みに余念がありません。かと思えば、レジに「クルマに古い本を積んできたんだけどさー、幾らで買ってくれる?」なんておっさんまでいて。もちろん古本者らしき方もおられますが、なんというか普通のひとたちがごく自然に楽しんでいる感じで、これはこれで悪くない雰囲気です。駅近の元パチンコ屋というロケーションの敷居の低さや便利さ、ブックオフ風の明るく、健康的な雰囲気の安心感がふつうのひとたちにアピールし、 古本極道の方々という基礎票があるところへ、さらにそれなりの上積みを集めることに成功したということでしょうか。先日終わったばかりの古書店を舞台にした月九ドラマやその原作ベストセラーによるアピールも、良いタイミングで後押ししてくれたかもしれません。そう考えていくと、こういう古書市イベントによる集客も、町興しの一環としてまんざら無い話ではない気がしてきます。
もちろん、いちにち何千人も集めるような集客力はないでしょう。でも、ちゃんと古本さえ集まれば、少々遠くたって古本極道の方々はおいでになる。「基礎票」は作れるんです(笑)。まあ、それ単品で町興しなんて無理にしても、そういったイベントの1つとして企画するのは十分「あり」なのでは。実際、古本市のようなイベントって、近年増えている気がするんですよね。都心のデパートで開かれるような大規模なものは分かりませんが、地方で開かれるものや規模の小さなもの、一箱古本市みたいな素人さんが参加できるもの等々、いろいろな細かい市がたくさん生まれている気がします。大げさでなく一年中、日本のどこかしらで開催されているような実感さえある。まあ、あまり増えすぎてしまうと、それはそれで問題なのでしょうが、試してみるのは悪いことではないでしょう。「つちうら古書倶楽部大古本まつり」も会場の約半分はつちうら古書倶楽部として常設されるそうですし、夏にはまた「大古本まつり」も開かれるとか。機会があれば、次回もぜひお邪魔したいな、などと考えつつ、昼下がりの土浦を後にした次第。
※実はそのあと、古本まつり会場のごく近くにある、古本屋さんを2軒お訪ねしました。今回の「つちうら古書倶楽部」の主催者でもあるらしい「れんが堂書店」さんと漫画専門の「まんがらんど」さんです。前者はやはり、古書市会場に詰めておられたらしくお店の方はお休みでした。一方、後者のまんがらんどさんは、同人誌まで網羅したマンガ専門古書店でしたが、爺には少々敷居が高い雰囲気で早々に退散(笑)。
※購入本はこんな感じ。目玉はいちばん下の、和久峻三さんの公判調書風味のファイルミステリー豪華本『雨月山荘殺人事件』でしょうか。当方は和久さんの良い読者ではありませんが、袋とじ未開封の美本で300円だったので即買いです。あと、けっこう新しい『特撮映画美術監督井上泰幸』も特撮のコンテどっさりで嬉しい買い物。『真珠母の匣』は残り少ない読み残しの中井英夫作品で、箱は焼けまくりですが中身美本です。『海からきたなぞ』はクロフツの少年少女向けアブリッジ。CROFTSWERK!ですね。あと幻影城本の2冊はもちろんダブりですが、これも両方、袋とじが未開封だったので、これを機に今度は未開封集めに挑戦しようかなあ、とか。いやいや、辞めて起きます。あとは……まあいろいろ。『浦安鉄筋』はロッテ回が入ってる巻だったので。