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月別アーカイブ: 4月 2013

大古本まつり会場。おっさんが多いのはたまたまです

大古本まつり会場。おっさんが多いのはたまたまです

そんなわけで。一時間ちょっと、どこに何があるか分からない古書市ならではの意外な出会いを堪能しつつ、ふるほん成分をたっぷり摂取し、おなかも心も楽しく満ちたりて少しばかり落着いてくると、ようやくいろいろなことが目に付き始めました。そうやってみるとこの「つちうら古書倶楽部大古本祭り」、数多ある古書市や古本祭りのなかでもちょっとばかり特異な感じがします。まず、駅から徒歩5分の元アミューズメントスペースというロケーションがおもしろい。神保町や古書会館のような、古書のための専用スペースではもちろんないし、デパートのような大都市の高級感ある売場というわけでもない。いちばん近いのは新橋駅前広場で行なわれる古書市でしょうか。でも、新橋はあくまで都心だしビジネス街なのに対して、こちらはさらに俗っぽく、やや侘びしく(笑)、生活感にあふれています。客層もずいぶん違います。通常の古書市はやはり古本極道ら筋モノの方々が中心で、静かな中にも常に一触即発の緊張感が漂っていますが、こちらでは、そんな雰囲気は微塵もない。昼下がりのブックオフ以上にゆるーい感じなのです。

古本まつりのあとでお邪魔した「れんが堂書店」さんはお休みでした

古本まつりのあとでお邪魔した「れんが堂書店」さんはお休みでした

老夫婦が楽しそうに時代小説や歴史書を探し、買い物帰りの奥さまが幼児の手を引きつつ絵本を探しています。学校帰りの小中高校生も、漫画の立ち読みに余念がありません。かと思えば、レジに「クルマに古い本を積んできたんだけどさー、幾らで買ってくれる?」なんておっさんまでいて。もちろん古本者らしき方もおられますが、なんというか普通のひとたちがごく自然に楽しんでいる感じで、これはこれで悪くない雰囲気です。駅近の元パチンコ屋というロケーションの敷居の低さや便利さ、ブックオフ風の明るく、健康的な雰囲気の安心感がふつうのひとたちにアピールし、 古本極道の方々という基礎票があるところへ、さらにそれなりの上積みを集めることに成功したということでしょうか。先日終わったばかりの古書店を舞台にした月九ドラマやその原作ベストセラーによるアピールも、良いタイミングで後押ししてくれたかもしれません。そう考えていくと、こういう古書市イベントによる集客も、町興しの一環としてまんざら無い話ではない気がしてきます。

こちらもあとでお邪魔した「まんがらんど」さん。マンガ専門の古本屋さんですね

こちらもあとでお邪魔した「まんがらんど」さん。マンガ専門の古本屋さんですね

もちろん、いちにち何千人も集めるような集客力はないでしょう。でも、ちゃんと古本さえ集まれば、少々遠くたって古本極道の方々はおいでになる。「基礎票」は作れるんです(笑)。まあ、それ単品で町興しなんて無理にしても、そういったイベントの1つとして企画するのは十分「あり」なのでは。実際、古本市のようなイベントって、近年増えている気がするんですよね。都心のデパートで開かれるような大規模なものは分かりませんが、地方で開かれるものや規模の小さなもの、一箱古本市みたいな素人さんが参加できるもの等々、いろいろな細かい市がたくさん生まれている気がします。大げさでなく一年中、日本のどこかしらで開催されているような実感さえある。まあ、あまり増えすぎてしまうと、それはそれで問題なのでしょうが、試してみるのは悪いことではないでしょう。「つちうら古書倶楽部大古本まつり」も会場の約半分はつちうら古書倶楽部として常設されるそうですし、夏にはまた「大古本まつり」も開かれるとか。機会があれば、次回もぜひお邪魔したいな、などと考えつつ、昼下がりの土浦を後にした次第。

※実はそのあと、古本まつり会場のごく近くにある、古本屋さんを2軒お訪ねしました。今回の「つちうら古書倶楽部」の主催者でもあるらしい「れんが堂書店」さんと漫画専門の「まんがらんど」さんです。前者はやはり、古書市会場に詰めておられたらしくお店の方はお休みでした。一方、後者のまんがらんどさんは、同人誌まで網羅したマンガ専門古書店でしたが、爺には少々敷居が高い雰囲気で早々に退散(笑)。

心地よい重みというレベルをはるかに逸脱した本日の戦果

心地よい重みというレベルをはるかに逸脱した本日の戦果

※購入本はこんな感じ。目玉はいちばん下の、和久峻三さんの公判調書風味のファイルミステリー豪華本『雨月山荘殺人事件』でしょうか。当方は和久さんの良い読者ではありませんが、袋とじ未開封の美本で300円だったので即買いです。あと、けっこう新しい『特撮映画美術監督井上泰幸』も特撮のコンテどっさりで嬉しい買い物。『真珠母の匣』は残り少ない読み残しの中井英夫作品で、箱は焼けまくりですが中身美本です。『海からきたなぞ』はクロフツの少年少女向けアブリッジ。CROFTSWERK!ですね。あと幻影城本の2冊はもちろんダブりですが、これも両方、袋とじが未開封だったので、これを機に今度は未開封集めに挑戦しようかなあ、とか。いやいや、辞めて起きます。あとは……まあいろいろ。『浦安鉄筋』はロッテ回が入ってる巻だったので。

シャッター商店街化したショッピングセンターより土浦駅を臨む

今はなき「うらら」より土浦駅を臨む

仕事がら、取材と言っては日本じゅうあちこち出かけています。むろん渡世人の方にはとうてい及びませんが、北は北海道から南は九州、沖縄にソウル、上海まで、大都市圏から奥深い山の中の現場まで、発注があればどこでもほいほい出かけます。もっとも昨今はどこでも日帰りの予算しか付きませんし、駅と取材先とを往復するだけの出張も多いのですが、少しでも余時間的・心理的余裕がある時はできるだけ時間をつくり、街を歩いて、古本屋さんを訪ねて歩くのが大きな楽しみです。まあ古本屋さんがない町も多いので、ひたすら町歩きに励むこともしばしばですが、近年はしかし、一部の例外を除き、地方都市はどこもかしこもずいぶんと寂しい景色が増えました。駅や役所や体育館などは妙に立派なのに、町の中心部は猫の子いっぴきいないシャッター商店街、なんていまは少しも珍しくありません。今回お訪ねした茨城県土浦市にしても、着くまではもっと賑やかだった記憶があるんですが、いまや駅を一歩出ると真正面の大きなショッピングセンターがシャッターを下ろし、明かりを消して、全館シャッター商店街化していたという……。聞けばこの2月に閉店したばかりとかで(※1)、何ともはや言葉を無くしてしまいました。

秋葉原の場末あたりでよく見かける感じ

秋葉原の場末あたりでよく見かける感じ

とにもかくにもまずは仕事です。市内在住の某設計者の事務所を訪ね、2時間ほどお話を伺いました。こちらも上手く轡を引かないないと、ぽろぽろ愚痴がこぼれ始めるような話しぶりで、市場環境は相当厳しい感じ。ともあれ、当方ごときが心配してても始まりません。なんたって今日はこれから「つちうら古書倶楽部大古本まつり」探索!という重大ミッションがあるのです。この古書市は、関東・東北の古書店22店が共同出店した大型古書店「つちうら古書倶楽部」の出展記念イベント。そもそも「つちうら古書倶楽部」が約830平米30万冊という関東最大級の大型店なのに、「祭り」ということでバックヤードスペースまで売場として加え、そらもう笑っちゃうくらいデカい!と。関東圏最大級!と。その筋で話題になっていたわけで、ここまで聞かされたら行かないわけにはいかないでしょう。いったん土浦駅に戻って取材道具で重たいカバンをコインロッカーに預けると、いざ出撃。といっても目的地はすぐそこです。駅前ロータリー右手の「りそな銀行」の脇を入って数分歩き、左手2つ目の角を曲ると突如、極彩色の建物が出現します。古本関係とはこれっぱかしも思えない、むしろ秋葉原の場末を連想させるビルです。

妙に明るく解放感あふれる入り口

妙に明るく解放感あふれる入り口

聞く所によると、このビルはもともと「パーク・パティオ」というアミューズメントビルだったとのことで。1階にパチンコ・スロット、上階にはゲームセンターやらインターネットカフェやらレストランやらが入居していた模様。東京圏でも郊外都市なんかで非常によく見かけるアレですね。で、こちらの場合、それら諸施設が諸般の事情により退去された後、ビル1階をつちうら古書倶楽部さんがお借りになったのでしょう。そこまでは手が回らなかったのか、外装はパチンコチックなままですが、「そこに古本さえあれば良い」諸先輩がたが気にするはずもなく。いまにもけたたましく軍艦マーチが鳴り響きそうだろうが(<古い)、文化のカケラも感じさせない下品な色合いだろうがまったく無問題です。ともあれ一歩足を踏み入れると、右に自販機、左に均一棚がずらり並んだ長いアプローチが伸び、その先に、これまたいかにもパチンコ屋っぽい自動ドアの入り口があります。さすがにここにはきちんと、ぴかぴかの「つちうら古書倶楽部」の看板がかかっています――が、開店記念とて進物の花なんぞ飾ってあるのがまたパチンコ屋っぽい(笑)。まあ、がたがた言ってないで、とっととお店へ入りましょう。

元パチンコ屋だけに店内がえらく明るい

元パチンコ屋だけに店内がえらく明るい

なるほどこれは広い。広すぎる! さすが250坪30万冊と申しましょうか、建物が奥へ奥へと伸びていく細長ーいつくりなので、勢いお店もスーパーロング・ウナギの寝床スタイル。左右の壁面はもちろん、背中合わせの本棚が4〜5列(数え忘れました、すいません)、奥へ奥へと伸びまくって切りがありません。本気で店の一番奥が霞んで見えるほどで、しかも棚はジャンルごとに分けられているわけでもないカオス状態と来ては、効率よく回っていかないとエライことになります。当方もかなりの急ぎ足でローラーをかけましたが、回りきるには2時間たっぷりかかりました。一方、並んでいる本ですが、言ってしまえば何でもあり。単行本文庫新書はオールジャンルをカバーし、絵本や漫画、事典、全集、雑誌、漫画雑誌、グラフ誌、専門誌、洋書に、黒っぽい本もどっさり。さらには古絵葉書、版画、浮世絵、映画プログラムにポスター。さらにはアンティーク(?)ギターや鉄道の駅名標や行先方向板まで並んでいます。まあ、先人たちが散々さらっていった後だけに、掘り出し物というほどのものはありませんでしたが、ミステリもけっこう多く、いい感じの人の入りといい、古書市としてはたいへん楽しいものでした。お値段も東京圏に比べれば、全体にかなり安めに感じましたよ。 (つづく)

※1「ウララ」http://www.urala.net/index.html 跡地には5月に土浦市役所が移転してくる由。そりゃ便利だ……けどねぇ。